今週のお題「怖い話」
ここはどこ?
私は誰?
目の前に見えるのは、長い廊下と・・・白い壁だけ。
あ。誰かこっちに向かって来る。
ニコニコ笑ってる。
え?なに?
なにか私に話しかけてるけど、小さい声だし、なにを言ってるのかよくわからない。
でも、良さそうな人だから、私も笑ってうなづいておこう。
あ! 窓から外が見える。
木の葉っぱが風に揺れてるな。
あれ! 目の前に ごはんとおかずが置いてある。
食べよう。
なんだか眠くなってきたな。
寝よう。
・・・・・・。
要介護4で施設に入所している認知症の母は、私の推測ですが、現在はこんな意識で生きているのではないかと考えています。
今はもう、記憶が薄れていく混乱はさほど感じないほどに、認知症自体が進行していると思うのですが、まだ初期だった頃には、不安を感じている様子が多々うかがえました。
「最近、頭が変になってきたいみたいだよ」
初期の頃に母がよく口にしていたことを思い出します。
ただ、その頃は私もまだ認知症への知識も浅く、母が認知症であることに気づいてなかったので、あまり気にもとめていませんでした。
もう少し進行してくると、言葉にして訴えるようなことはなくなりました。
頭が混乱してくると、わけもなく感情的になったり、意味のない変な行動を繰り返すようなことをし始めました。
そうそう!「頭が変になってきた」という代わりに、
「もう、死にたい」という言葉を、
頻繁に口走っていたことを思い出しました。
TVなどで他の認知症の方を見ると、その進行過程において、激しく混乱してしまう人もいれば、比較的穏やかに受け入れている人もいるようなので、個人差はあるのでしょう。
私の母の場合、自身が認知症であることには、最後まで気づいてなかったと思います。
そもそも、認知症という症状についての知識は、持ち合わせてなかったはずですから。
でも、徐々にいろいろなことがわからなくなっていく不安と恐怖を、どのように受け入れ、今はその恐怖が母の中でどうなっているのか、とても気になるところです。
少なくとも、今でもまだ母の中には 理解不能な恐怖感が潜んでいて、時折それが顔をのぞかせて、母を不安にさせているような気はします。
なにもしないでボーっとしている時などに、その不安感がじんわり押し寄せてくるかもしれないな、と思うのです。
認知症になっても、感情の記憶だけは意外と根強く残っているものですから。
認知症の人は、「今、ここ」がすべてだと聞いたことがあります。
思いわずらう過去も未来もないのです。
究極の生き方を実践していると言えば、そう言えなくもないわけです。
入所している母への面会は、今のところオンラインでしかできません。
私はとにかく、直接会って、なおかつ母に触れたい!
それができないまま、母の寿命が尽きてしまったら、と思うことが、今の私にとっては一番の恐怖です。